「K-POPのゴッドファーザー」と呼ばれるイ・スマン(이수만)氏——SM Entertainment(SMエンターテインメント)の創設者であり、K-POP産業の礎を築いた人物が、いよいよ韓国国内市場に帰ってきます。2023年2月にSM株14.8%をHYBE(ハイブ)に売却した際に結ばれた「3年間の競業禁止条項」が、2026年2月末をもって正式に解除されるのです。
この記事では、イ・スマン氏がなぜSMを離れたのか、3年間の沈黙の裏で何を準備していたのか、そしてK-POP業界の勢力図がどう変わるのかを、データと事実に基づいて徹底分析していきます。
競業禁止条項解除——何が起きるのか
2026年2月3日、複数の韓国メディアが一斉に報じました。イ・スマン氏の競業禁止条項が今月末に解除され、新会社A2O Entertainment(エーツーオー・エンターテインメント)を通じた韓国国内活動が本格的に始動すると。
A2O Entertainmentの関係者は、イルガンスポーツの取材に対して「イ・スマンの競業禁止期間は2月末で終了する。上半期中にボーイズグループをローンチすることを目標に準備を進めている」と明言しました。
重要な数字の整理
- 売却額:4,228億ウォン(約440億円)——イ・スマン氏がSM株14.8%をHYBEに売却した金額
- 競業禁止期間:3年間(2023年2月〜2026年2月)
- 制限内容:韓国国内でのエンターテインメント・プロデュース活動の禁止
- 解除日:2026年2月末
- 新会社:A2O Entertainment(シンガポール本社、米国・日本・中国に支社)
約440億円を受け取る代わりに3年間は韓国国内で音楽プロデュースをしないという約束。その縛りが、今まさに解けようとしています。
背景——SM経営権争いから3年間の軌跡
イ・スマン氏のSM離脱は、2022年から2023年にかけて起きた激烈な経営権争いに端を発しています。
SMの最大株主であったイ・スマン氏は、経営陣との方針対立が深刻化。HYBEのパン・シヒョク(방시혁)議長が「イ・スマンの株式14.8%を4,228億ウォンで買収する」と発表し、業界に衝撃が走りました。最終的にはカカオ陣営との争奪戦を経て、SMの経営権はカカオ側に渡りましたが、イ・スマン氏とHYBEの株式売買契約はそのまま有効となり、3年間の国内競業禁止がスタートしたのです。
この3年間でK-POP業界はどう変わったか
イ・スマン氏が不在だった3年間、K-POP業界は大きく変動しました。
- SM:カカオ傘下で「SM 3.0」体制に移行。2026年には「SM NEXT 3.0」として新ボーイズグループのデビューを発表
- HYBE:BTSの完全体復帰、ENHYPENの米ビルボード「アーティスト100」1位達成、新人CORTIS(コルティス)のデビュー作ミリオン
- YG:BABYMONSTERの急成長、BLACKPINKメンバーの個人活動拡大
- JYP:NMIXXのラテンアメリカ進出、Stray Kidsのスタジアムツアー成功
4大事務所がそれぞれ進化を遂げる中で、「K-POPのゴッドファーザー」が3年ぶりに国内市場に戻ってくる。この復帰が業界の勢力図に影響を与える可能性は十分にあると言えます。
3年間の「沈黙」は本当に沈黙だったのか
競業禁止条項は「韓国国内」に限定されていました。海外での活動は自由だったのです。そしてイ・スマン氏は、この3年間を戦略的に活用していました。
A2O Entertainmentの歩み
- 2024年初頭:シンガポールにA2O Entertainmentを設立
- 2024年5月:韓国・江南にA2Oの国内事務所を開設、韓国で商標登録
- 2024年10月:YouTubeで練習生15人を電撃公開。「A2O Rookies」として、HTG(High Teen Girls)、LTG(Low Teen Girls)、LTB(Low Teen Boys)の3カテゴリーで紹介
- 2024年12月:ガールズグループA2O MAY(エーツーオー・メイ)をデビュー。中国出身3人とハワイ出身の中華系アメリカ人2人(双子のKatとMiche)の全員中華系メンバーで構成
A2O MAYの実績
A2O MAYは、中華系ガールズグループとして米国Mediabase Top 40に史上初のチャートインを達成。複数の新人賞も受賞しています。
これは偶然の成功ではなく、韓国国内復帰後の本格展開に向けた「テスト」だったという見方ができます。海外市場でプロデュース手法を検証し、ノウハウを蓄積した上で、満を持して韓国市場に乗り込むという戦略です。
「Zalpha Pop」——イ・スマンが提唱する新コンセプト
イ・スマン氏は、A2Oの活動にあたって「Zalpha Pop(ザルファ・ポップ)」という新しいコンセプトを掲げています。Z世代とアルファ世代を横断する新しい音楽ジャンル——それがZalpha Popです。
CTからZalpha Popへの進化
SM時代にイ・スマン氏が提唱した「カルチャー・テクノロジー(CT)」は、世界観の構築、AIとの融合、多国籍グループ戦略を柱としたものでした。Zalpha PopはこのCTの延長線上にありますが、明確な違いがあります。
- CT(SM時代):巨大事務所のインフラを前提とした、トップダウン型のプロデュース体制
- Zalpha Pop(A2O):シンガポール本社+各国支社の分散型組織。グローバルファーストの軽量構造
CTが「K-POPを世界に広げる」ための方法論だったとすれば、Zalpha Popは「世界各地で同時にK-POPを生み出す」ための方法論と言えるかもしれません。この発想の転換がどう機能するかは、今後のA2O Soulのデビューと市場反応で明らかになるでしょう。
A2O Soul——新ボーイズグループの戦略的ポジショニング
上半期中のデビューが予定されている新ボーイズグループ「A2O Soul(エーツーオー・ソウル)」。韓国人と中国人のメンバーで構成されると報じられています。
デビュータイムラインの変遷
当初は2026年3月、競業禁止解除直後のデビューが計画されていましたが、現在は上半期中に調整されています。Korea Heraldによると、下半期にずれ込む可能性もあるとのこと。慎重な準備を進めていると見られます。
SM新ボーイズグループとの同時期デビュー
注目すべきは、SMも2026年に新ボーイズグループのデビューを予定していることです。元創設者と元事務所が、同時期に新人をぶつけ合うという、K-POP史上初めての構図が生まれようとしています。これはファンの間でも大きな関心事となるでしょう。
人材の流れ——SMの「レジェンド」たちの動向
A2O Entertainmentには、SMで長年活躍してきた重要人物が合流しています。
- ユ・ヨンジン(유영진):SM時代にEXO、NCT、SHINeeなど数々のヒット曲を手がけた伝説的プロデューサー。A2Oでもプロデュースを担当
- 少女時代のサニー:イ・スマン氏の姪。A2Oでプロデューサーとして新たなキャリアを開始
BoAの動向——最大の注目ポイント
K-POP史上最も重要なアーティストの一人であるBoA(ボア)が、2025年12月31日に25年間所属したSMを退所しました。イ・スマン氏との再合流が取り沙汰されており、もしBoAがA2Oに加わることになれば、それは単なる人材移動ではなく、K-POPの「象徴」が移ったことを意味します。
BoAはSM在籍中にNCT Wishのプロデュースを手がけるなど、パフォーマー以外の領域にも影響力を広げていました。プロデューサーとしてのBoAがA2Oでどのような役割を果たすのか、業界の注目が集まっています。
K-POP業界への影響——勢力図はどう変わるか
短期的な展望(2026年前半)
- 2月末:競業禁止条項の正式解除
- 3月以降:A2O Entertainmentの韓国国内オフィス本格稼働
- 上半期中:A2O Soulデビュー(韓国国内市場向け)
中長期的な影響
1. 4大事務所体制の変化
イ・スマン氏の復帰により、従来のHYBE・SM・YG・JYPの「4大事務所」体制に、A2Oという新たなプレイヤーが加わる可能性があります。ただし、A2Oが既存4大と同等の規模になるには相当の実績と時間が必要でしょう。
2. SM vs A2Oの構図
最も注目すべきは、SMとA2Oの関係です。SMは「SMTOWN LIVE 2025」にイ・スマン氏を招待しましたが、イ・スマン氏は「報道を通じて知った」として不参加。両者の関係はまだ複雑な状況にあり、今後アーティスト・人材の争奪戦になる可能性も否定できません。特にSMの契約更新期を迎えるアーティストの動向は要注目です。
3. 中華圏市場戦略の再評価
A2O MAYが全員中華系メンバー、A2O Soulにも中国人メンバーが含まれることから、イ・スマン氏が中華圏市場を重要視していることは明らかです。近年、THAADミサイル配備問題以降中国市場との距離を取っていたK-POP業界全体に、中国市場再参入の動きを促す可能性があります。
4. K-POP産業モデルの進化
シンガポール本社、各国支社という分散型モデルが成功すれば、「韓国発」にこだわらないK-POP産業の新しい形が生まれるかもしれません。これは、K-POPの定義そのものを拡張する試みと言えます。
まとめ
イ・スマン氏の帰還は、単なる個人の復帰劇ではありません。K-POP業界の次の10年を左右する可能性のある構造的な変化の始まりです。
- 3年間の競業禁止条項が2026年2月末で解除
- A2O Entertainmentを通じて韓国国内市場に本格復帰。新ボーイズグループ「A2O Soul」のデビューを計画
- 「Zalpha Pop」という新コンセプトで、従来のK-POPモデルとは異なるアプローチ
- ユ・ヨンジン、サニー、そしてBoAの動向が今後のカギ
- SMとA2Oの関係性、4大事務所体制への影響が注目ポイント
「K-POPのゴッドファーザー」が再び動き出す2026年。その行方から目が離せません。