2026年1月20日、SMエンターテインメント(SM Entertainment)が公式YouTubeチャンネルで「SM NEXT 3.0」と題した2本の動画を公開しました。創立30周年を迎えたSMが、BoA(ボア)の25年ぶりの退所発表からわずか8日後に打ち出した新戦略。その中身を徹底的に分析していきます。
SM NEXT 3.0発表の概要
1月20日に公開された動画には、チャン・チョルヒョク共同代表、タク・ヨンジュン共同代表、そしてイ・ソンスCAO(Chief A&R Officer)の3名が登場し、SMの今後の方向性を株主とファンに向けて説明しました。
発表された主な内容は以下の7つです。
- マルチ・クリエイティブ体制への移行
- 2026年新ボーイズグループのデビュー
- グローバル戦略(テンセント、True、日本パートナー)
- AI技術の活用
- KWANGYA 119(アーティスト保護政策)の成果報告
- KMR(音楽パブリッシング事業)の拡大
- グローバル・リーディング企業としての決意表明
注目すべきは、この発表がBoAの退所発表からわずか8日後だったという点です。SMの象徴とも言える存在が去った直後に「次の時代」を明確に打ち出してきたタイミングには、SMの強い意志が感じられます。
「マルチ・クリエイティブ体制」とは何か
動画の核心部分といえるのが、「マルチ・クリエイティブ体制」への移行です。
タク・ヨンジュン代表は動画の中でこう述べています。
「アーティストを中心に最適なクリエイターを探索・配置する方式を通じて、成長と変化を同時に実現したい」
従来の「SM 3.0」では、社内に5つの「マルチプロダクション」チームを設置し、それぞれが担当アーティストを持つ形でした。しかし新体制では、固定チームではなく、プロジェクトごとに最適なクリエイターを柔軟にアサインする方式に変わります。
例えば、aespa(エスパ)の新曲を作るときに、「aespa担当チーム」が作るのではなく、「この曲のコンセプトに最も合うプロデューサー、振付師、ビジュアルディレクター」を都度選んで組み合わせる。そういうイメージです。
なぜこの変化が必要だったのか
この変化の背景には、イ・スマン創業者(2023年退任)やユ・ヨンジン(SM楽曲の象徴的プロデューサー)といった「固定的なクリエイティブの核」が不在になったという現実があります。
つまり、特定の天才に依存するモデルから、システムとして良質なコンテンツを生み出すモデルへの転換と言えます。これはSMにとって大きな挑戦であり、同時にK-POP業界全体の今後を占う重要な実験でもあります。
2026年新ボーイズグループ ー SMTR25の全貌
動画では、「2026年に1組のボーイズグループがデビューする」と正式に発表されました。そして、その候補となるのがSMTR25(エスエムティーアール25)のメンバーです。
SMTR25の基本情報
- 名前の由来:当初25名の練習生で構成されていたことから「25」
- 現在公開されているメンバー:15名
- 国籍構成:韓国、日本(4名)、タイ(3名)、アメリカ、イギリスなど多国籍
- デビュー予定:2〜3チームがデビュー予定、最速は2026年上半期
公開されている15名のメンバー
最初に公開された11名(2025年4月):ジャスティン、ハルタ、カッショウ、ハミン、ソンハ、ニコラス、ヒョンジュン、ハンビ、ダニエル、タタ、カチン
追加公開された4名(2025年9月):チャーリー、サダハル、ジェウォン、ウーリン
日本人メンバーが4名(ジャスティン、カッショウ、ハルタ、サダハル)含まれている点も注目です。SMは「現地化グループ」ではなく「韓国発のグローバルアイドル」を軸にしており、JYPのNiziU(ニジュー)やHYBEの&TEAM(エンティーム)とは異なるアプローチを取っています。
「応答せよハイスクール」- 従来と異なるデビュー戦略
SMTR25のメンバーは「応答せよハイスクール(Reply High School)」というバラエティ番組を通じて紹介されます。この番組が興味深いのは、従来のサバイバル形式ではないという点です。
番組の形式は以下の通りです。
- 90年代クラス(5人)
- 2000年代クラス(5人)
- 2010年代クラス(5人)
練習生たちが各時代の「クラス」に分かれ、その時代の文化、ファッション、音楽を体験しながら成長していく「時間旅行成長バラエティ」という新しい形式です。
この形式の狙いは、SMの「30年の歴史」というアセットを最大限活用する戦略だと考えられます。90年代はH.O.T.、2000年代は東方神起やSUPER JUNIOR、2010年代はEXOやNCT。各時代のSMの音楽を体験させることで、ファンに「SMの系譜を継ぐグループ」というストーリーを植え付ける狙いがあると見られます。
グローバル戦略とAI活用
グローバルパートナーシップ
タク・ヨンジュン代表は動画で以下のように述べています。
「SMのクリエイティブ力を軸に、現地の強力なパートナーと積極的に協力しながら制作・マーケティングを展開する」
具体的なパートナーは以下の通りです。
- 中国:テンセント・ミュージック・エンターテインメント(Tencent Music Entertainment)
- タイ:True
- 日本:複数のパートナーと協議中
また、SM ENTERTAINMENT JAPANからは日本人8人組のGPP(ジーピーピー)が1月14日にメジャーデビューしており、ローカライズ戦略も並行して進めていることがわかります。
AI技術の活用
チャン・チョルヒョク代表はAI活用についてこう語っています。
「SMは親会社であるカカオのAI技術力を活用できる強みがある。急変するK-POPとAIの接点において、大きなシナジーを期待している」
具体的には、SMが30年間蓄積した数万曲規模の楽曲データをAIが分析し、アーティストごとに適合度の高い楽曲を提案するシステムを構築するとのこと。人間のA&R(アーティスト&レパートリー)担当者の「勘」に頼っていた部分を、データドリブンで効率化しようという試みです。
KWANGYA 119とKMRの成果
アーティスト保護政策「KWANGYA 119(クァンヤ イリリプ)」
チャン・チョルヒョク代表は、アーティスト保護施策についても言及しました。
「KWANGYA 119施行後の約2年間で30万件の通報が寄せられ、応答率は99.8%に達した。2026年からは、告訴や通報などの対応状況を四半期ごとにファンの皆さまへ共有できるよう準備している」
アーティスト保護への積極的な姿勢を示すとともに、対応状況の透明化を進める方針が明らかになりました。
音楽パブリッシング事業「KMR」
音楽パブリッシングとは、作詞家や作曲家から楽曲の著作権を預かり、その楽曲を様々なメディア(テレビ、映画、CM、ゲーム、配信など)で利用できるようにプロモーションし、著作権料(印税)を管理・徴収して作家に分配するビジネスです。
イ・ソンスCAOは、音楽パブリッシング子会社KMR(KREATION MUSIC RIGHTS)について詳しく説明しました。
「KMRは韓国、ヨーロッパに続き、2025年にはアメリカへも進出し、グローバルレパートリーの基盤を確保した。現在、370人以上の作曲家と専属またはサブ・パブリッシング契約を結び、7000曲以上の主要K-POPカタログを保有している」
さらに「今後5年以内に、アジア最大かつ最高のパブリッシング会社を保有し、それを基盤に知的財産(IP)のハブへと成長させていく」との抱負も示されました。
BoA退所との関連 ー 時代の転換点
SM NEXT 3.0を語る上で避けては通れないのが、BoAの退所です。
1月12日、SMはBoAとの25年間の契約関係が終了したことを発表しました。契約終了日は2025年12月31日でした。
BoA本人はSNSでこうコメントしています。
「惜しみなく与え合った分、未練なく去ります」
「ともに過ごした時間に感謝し、これからも輝き続けるSMエンターテインメントを応援します」
BoAは単なるソロアーティストではありませんでした。NCT WISH(エヌシーティー ウィッシュ)のエグゼクティブプロデューサーとして、コンセプト設計から録音、プロダクションまで統括していた人物です。
つまり、BoAの退所は「SMの伝統的なサウンドと現代をつなぐ架け橋」が失われたことを意味します。だからこそ、SM NEXT 3.0で「マルチ・クリエイティブ体制」を打ち出したのだと考えられます。特定の人物に依存しない、システムとしての強さを構築する必要があったわけです。
2026年のSM ー 今後の展望
最後に、今後の展望をまとめます。
2026年のSMの動き(予測)
- 「応答せよハイスクール」放送開始(2026年上半期)
SMTR25メンバーの露出が本格化し、デビューメンバーの絞り込みが進む - 新ボーイズグループデビュー(2026年中)
SMTR25から選抜された1チームがまずデビュー、2〜3チームが順次デビューの可能性 - グローバルパートナーシップの具体化
日本でのパートナー発表に注目、GPPの展開も並行 - AI活用A&Rシステムの実用化
新人グループの楽曲制作で活用される可能性
ファンとして注目すべきポイント
SMは「KWANGYA 119」で約2年間に30万件の通報を受け、99.8%に応答したと発表しています。2026年からは対応状況を四半期ごとに公開するとのことで、アーティスト保護への姿勢は評価できるポイントです。
また、KMR(音楽パブリッシング子会社)が370名以上の作曲家と契約し、7,000曲以上のカタログを保有しているという点も重要です。これは、SM以外のアーティストにも楽曲を提供するビジネスの基盤になります。
まとめ
SMエンターテインメントが発表した「SM NEXT 3.0」は、創立30周年という節目に、BoA退所という大きな変化を経て打ち出された新戦略です。
その核心は以下の3点に集約されます。
- マルチ・クリエイティブ体制への進化 ー 特定の天才に依存しないシステム構築
- 2026年新ボーイズグループのデビュー ー SMTR25から選抜、「応答せよハイスクール」で紹介
- グローバル展開とAI活用 ー テンセント、True等とのパートナーシップ、カカオのAI技術活用
SMがこの戦略をどう実行していくのか、そして「応答せよハイスクール」でどのようなグループが誕生するのか。2026年のK-POP業界において、SMの動向は引き続き注目に値します。